出版界の環境
2003年5月に初来日した、親子二代に渡ってアメリカで硬派出版社を経営、現在はNPOの出版社を率い、コングロマリット支配によって商業主義に変貌する欧米の出版界に危惧を抱く『理想なき出版』(柏書房)の著者であるアンドレ・シフレンは、日本の出版界の感想を「アメリカやイギリスの出版界で起こっていることに比べれば日本の状況はいまも、良い意味できわめて印象深いものです。利益をめざすのではなく、まじめな出版も続けることができますし、読者に求めるものの多い難しい本も、まだ世界のどこよりも訳されているほうです。とはいえ出版は、つねに世界のミクロコスモスです。自国の知的伝統をどう保つかなど、世界の出版界の課題は、日本においてもまだ去っていません」と結んでいます。日本には約7500社の出版社があり、このうち4500社が年間1点から10点の新刊を発行し、あとの1000社が10点以上を刊行しています。出版の多様性はまだ保たれていると言えるのかも知れません。しかし1999年に刊行された小田光雄著『出版社と書店はいかに消えて行ゆくか−近代流通システムの終焉』(ぱる出版)が4年たった現在現実のものとなっています。
今年も、ナショナルチェーン、地域老舗書店の経営危機は続き、リブロ・パルコチェーンの取次店・日販による株取得、大量の丸善株の取次店・トーハンによる取得、各地の老舗書店の倒産・廃業・店舗売却、神田村の老舗取次日新堂書店の破産申請などが続いています。また、各地の商業立地環境の変化による大規模な書店の出店や移転、リニュアールも続いており、規模による地域一番店競争はいまだ続いています。しかしながら、地方出版をいままで支えてきた外商や学校納入で地域と密着してきた老舗書店の衰退、大型書店チェーンの人手不足やPOS化による画一的、仕入れという変化は、地方出版や小規模出版にとって販売機会の縮小という事態となっています。また、主に書籍を購入する学生や学者層の減少、中高年読者の高齢化による読書量の減退などによって、今後の規模の拡大は望めません。出版物売上減の傾向はこれからも続くでしょう。